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涙をこぼしながら、――それでも必死で泣き出すのを堪えながら、わたしは春山先生を見返していた。
「……フジコ先生と、……保健室で……」
わたしは笑顔を作ろうとした。
「気持ち、よかったですか?――先生、……大人のキスって、そんなにいいんですか?」
でも、うまく笑えない。
「どうしたら、先生は、……わたしを見てくれるのかって、ずっと……」
自分の顔が、どんどん歪んでいくのが分かった。
「ずっと、振り向いてほしいって、思ってたけど。
……あんなキス、わたしには、できない……。
大人のキスなんて、――わたしは、知らないっ……!」
目の前が涙で曇って、何も見えない。
でも今、先生がどんな顔をしてわたしを見ているのかは、想像できる。
俯いて泣きじゃくるわたしはきっと、――大人を困らせる、ただの子供だ。
わたしのフジコ先生への信頼は”嫉妬”という捻じれた黒い感情によって正反対にシフトした。
くだらない子供のヤキモチから、わたしはあの日を境に、あんなに親身になってくれたフジコ先生に対し、冷たく、意地悪く八つ当たりし続けた。
手足をバタバタさせて駄々をこねる、幼児のように。
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