参乃巻

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あぁ今思えば あの割り箸を 割り裂いてやれたなら まだどんなにか気が晴れたであろう。 しかし私には 魂を引き抜かれた両脚を引きずり 其処より立ち去るしか術は無かったのだ。 初夏の趣は 城下の町並みを紺碧の彩りに染めていた。 微かに聞こえる筈の蝉の声が 覚めぬ幻夢に呑まれた私を引き戻すように耳元を掠め やがて聞こえなくなると パタリと落ちて 無に帰した。
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