壱乃巻

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水面を走る一対の鯉目掛けて落ちていった小石が 波紋を描いて沈みゆく。 それはえらく緩慢で 私のささくれだった身の内を嘲笑うには余りあるとばかりに 悠然と其の美を見せつけていた。 夕闇がひとしきり燃え尽きた天空に 漆黒の帳が頭を擡げる。 行灯の薄明かりに群がる蛾に等しき我が身は 明日をも知れぬ虚空を ただ彷徨い続けていた。
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