第2話

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「生きたい」 青年のその意思を聞いた少女は青年を拘束する縄を切る。 「ちょっと待ってて」 そう言うと少女は剣を鞘にしまいながら空いている手で青年の頬に触れる。 そして目を閉じて何かを呟くと、淡い光が手から発せられ、青年の身体に変化をもたらす。 「これは……傷が治っていく?」 青年の言葉の通り、全身にあった傷が塞がり、治癒していく。 「……ふう、治癒魔術なんて専門外だから慣れないわね」 そう言いながら彼女が手を話す頃には身体の傷は全て塞がり、痛みもなくなっていた。 「そういえば貴方……あんなのを見ても全く動じていなかったわね。何でかしら?」 少女は自分のした事を平然と『あんなの』呼ばわりし、興味深げな目で青年を見る。 「記憶喪失と言っていたから記憶を失う以前に耐性が出来ていた……?」 少女は顎に指を当て、呟き出す。 「もしかしたらだが……」 「うん?」 不意に口を開いた青年に、少女は考え事を中断する。 「もしかしたら俺は感情がないからかもしれない」 「何を言っているのかしら。感情がない……?ああ、そういうことね」 少女は納得がいったのか青年をじっと見据える。 「まあ、その辺は放っておいてもそのうち解決するでしょうし、私も少し知りたいことができたからこれから知人のところに貴方を連れていくけどいいわね?」 何やらこれからの行動が決まってしまったらしいが記憶のない青年に帰る場所などありはしない。 断る理由がないので青年は頷いた。 「わかった。では君について行くとしよう。……」 「……?ああ、私の名前、まだ教えてなかったわね」 青年が口ごもった理由がわかった少女は自己紹介をする。 「私の名前は桜。瑞希桜よ。年齢は17。職業は基本フリーランスで魔術師としての依頼を受けているわ」 「魔術師……?」 明らかに胡散臭いと言いたげな視線を送った青年だが、先程自分の傷を治した事例を思い出した。 「なるほど。話を聞いただけでは胡散臭いが実際に見たわけだから実在するのだろうな」 「ところで、貴方の名前なんだけど、名前も覚えていないのよね?」 「ああ、名前すら覚えていない」 「そう。それならそれで仕方ないわね。名前のことは後で考えることにしましょう」 そう言って少女、桜は縄を切られてもまだ座り込んだままの青年に手を差し伸べる。 青年もそれに応じ、柔らかく、暖かい桜の手を握り返した――。
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