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湊のことは別に嫌いではない。
ただ、彼女といると、なんというか調子が狂わされる。
『晋作! 栄太郎! 九一! 玄瑞!』
そうやって俺達のことを笑顔で呼ぶ姿は、他の誰もが持っていない癒しを与えてくれる。
『栄太郎』
俺の名前を呼ぶ姿が少しだけ、松陰先生と被っていて。
復讐を決意した俺の心を揺さぶられそうで、怖い。
「あら、吉田様。ちょうど良かった」
昔のことを考えながら屯所の中を歩いていると、一人の女中に話しかけられた。
「えーっと、香奈だっけ? 何? なんか俺に用?」
「香奈であってます。まだ覚えてくれてないんですね。まあそんなことより、湊見ませんでした?」
「はっ? 湊? 見てないけど」
「そう。あの子、仕事来ないで何やってんのかしら! 部屋に声かけても返事もないし……」
湊がいない……?
仕事を投げ出すような人ではない。
中途半端が嫌いな湊なら尚更。
少しだけ嫌な予感が頭をよぎった。
昨日、あんな話をしたばかりだから。
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