1600人が本棚に入れています
本棚に追加
/163ページ
「秤。」
彼は伏せていた顔を上げた
その顔は笑顔とは程遠いけれど、目は前のように腫れなくなった
前までは毎日のように泣き明かしていたから
それに比べると元に戻って行っている気がする
そんなの表面上だけの話だけど
実際には、秤は傷だらけだ
そうは分かっていても、辛い表情を見るのは辛いからこの変化は嬉しかった
「美味しそうだったから今川焼き買ってきた。」
「ありがとう。」
ほら、と袋を掲げてみせると秤は気を遣ったのかぎこちなく笑ってくれた
今川焼を取り出して差し出すと
受け取った秤はぱくりと一口食べて美味しいと感想を述べた
それも当たり前だ、それは元から彼のお気に入りだったから
学校帰りによく買い食いしていた
きっとそれを言ってしまうと彼はまた悲しむだろうから黙っているけれど
当然のことながら、秤はこんなことすら忘れてしまったんだ
覚えているんじゃないかと少しだけ期待していた俺は顔を伏せた
最初のコメントを投稿しよう!