脱出(前編)

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地球の環境はもはや、人類の手で解決できる問題ではなくなってきた。人類が、どんなに努力をしても過去の問題は解決することなく、いつの時代になっても利益を優先してきた。問題はいずれ、後世の人類が解決してくれる。そんな無責任なことを思っていた。  しかし、そんな後手へ後手への考えは限界を迎えた。人類は一つの決断をしなければならなかった。 「このまま、地球に留まり続けていても、利益を優先させてしまい、環境問題は永久に解決しない。よって、私達はもっとも、効果的で確実な環境改善方法として、地球を脱出する」  それは、まさに、前代未聞の計画であった。皮肉にも、それしか地球の環境を救う手立てがなかった。  地球の遺産や財産、人。全てを何百機もの宇宙船に積み込み宇宙へと脱出するしかない。しかし、それは地球を見捨てる計画ではない。地球を一時的に離れ、自分達は光りの速度で宇宙を飛んでいる間に地球の治癒力による回復に賭けるのだ。宇宙船の速度が速くなれば、なるほどに、人類の時間はズレていく。すでに、実験でも成功し証明された技術だ。  宇宙船に幾つもの物資を積み込み、次々と地球を脱出していく宇宙船。最後に残った一機は、仕上げとして地球に強力な焼夷弾を各地に落としていった。これは、地表に残った異物を焼き払う為の作業だ。異物が残ったままでは、地球の回復力の妨げになる。また、こうすることで、当分の間、地球には帰ることができないという現実を自分達に思い知らせ、地球との未練を断ち切る為でもある。中途半端な覚悟では、ホームシックを引き起こし地球が回復する時間など待っていられなくなる。  遠ざかる地球の表面は赤かと燃え、全てを灰にしていく。それは、さながら真っ赤な太陽のようだった。この真っ赤な太陽のような星がいつの日か、緑が生え元の美しい星へと戻ることだろう。
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