残された老人

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 老人は長いこと、地下室に籠もっていた。元々、人付き合いも悪く、誰とも会いたがらなかったのもある。それと、老人は今、ある研究をしていた。老人曰く、それは、実に意義のある研究だった。 「いずれ、この研究が完成すれば、きっと地球の問題は解決することだろう」  老人は自分の発明に自信があった。危機に瀕している地球。そこを救えるのは、自分の発明品だけのだと。  もっとも、老人の発明を理解できる人はいなかった。歳をとった男の戯れ言だと誰も相手にしなかった。老人の発明は、それほどまでに異端なモノなのだ。  どれほどの月日が経っただろうか。老人は一歩も外に出ることなく発明に熱中していた。水は地下水をくみ上げ、食料も保存食を中心に置いていた。元々、あまり動かない研究なので、それぐらいで間に合っていた。 「できたぞ!」  老人は飛び上がり喜んだ。長い長い研究の成果がついに実ったのだ。いち早く、この成果を世の中に知らせたかった。これで、問題を抱えていた地球は救われる。老人は発明品を抱えて、表へと飛び出した。  老人は目の前に広がる光景を見て言葉を失った。 「これはいったい・・・」  まさに、そう言うしかなかった。長いこと、地下室に籠もりっきりであったが、まさか、表がこんなことになっているとは予想もしていなかった。  焼き払われた無人の大地が広がっているだけだった。  何があったのか。世界規模での戦争であったのか、それとも、宇宙人でも侵略してきたのか。老人の頭に様々な想像が過ぎった。けれど、どんなに、想像を巡らせようと分かっていることは、生物はいないということだ。老人だけが、一人生き残っていた。  あまりにの変わりように、老人は驚きはしたが、絶望はしなかった。元々、人がそれほど好きではなかった。今更、人類が滅亡したからといって今までと、それほど変わらない。それに、老人には今しがた出来たばかりの発明品があった。  老人は老体で焼け野原となった大地を歩き、海を目指した。海だけは、焼け野原となった大地とは違い、今も昔も変わらずに雄大な姿を老人の前にさらしていた。  老人はその海に折角、創った発明品を投げ入れた。
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