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まず、俺がこの少女と出会う数日前のことから語ることにしよう。
火事が起こったその日から、俺はフミ(文節)と共に親戚の家に引き取られることになったのだが、フミが自殺した日を境に、俺は親戚の家から離れ、一人で暮らすことを決意した。
当然、叔父さんも叔母さんも反対したが、最終的には押し切るような形で家を出ることが出来た。恩を仇で返すような行動かもしれない。でも、フミが死んだことによって精神的に追い詰められている2人に、これ以上の迷惑は掛けたくなかった。
それから早くも4日は経つだろうか。その日は何日もの不動産屋巡りにいい加減参っていた頃だった。
「いや、月五千円台の物件は…ないですねー」
16件目の受付のお姉さんの笑顔が、疲れきった俺の心を容赦なく切り裂く。
「そんな。どんなに酷い所でも生活さえ出来れば良いんで、どこかないですかっ」
俺は尚も食いつくが、受付のお姉さんは困った顔で「すいません…」と謝るだけだった。
がしかし。
「ねぇお客さん、本当にどんなに酷い所でも良いのなら、全然ないわけじゃないけど?」
不意に、受付のお姉さんの後ろ、つまり受付の奥から声がした。女の人だ。もう一人の受付だろうか。
「え、あるんですかっ?」
俺の問いに、彼女は当然とばかりに頷く。と同時に、俺の担当をしていた受付のお姉さんがあたふたしだす。
「ちょっと斉藤さんっ、それってまさか…」
「そのまさかだけど?」
「それってマズいじゃないですか…?」
2人の間だけでしかわからない話が続いてるので、解説を斉藤さんと呼ばれた人に求める。
「えっと、どういうことですか?」
「ああ、ごめんね。簡単に話すと、一件だけ月五千円以内の物件があるのよ。でもそれ、ちょっとワケありでね」
ワケあり…、幽霊でも出るのだろうか。
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