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「どんなところなんですか?」
俺が尋ねると、斉藤さんは手を振りながら応える。
「いやいや、そんなに身構える必要はないんすよ。ただちょっとその大家さんが…あ、そこアパートだから大家さんがいるんだけど、その大家さんが少し問題あるのよねー。それに、このアパートは私達からしたら全くと言って良いほど儲かんないし」
「え、どういうことですか?」
俺が聞き返すと、今度は受付のお姉さんが口を開く。
「そのアパート、家賃を取らないんですよ。それに正規に紹介しているわけじゃないんで、こちらも紹介料などがもらえないんです」
「つまりは友達づてに紹介してるってカンジかな」
斉藤さんが補足する。
だが、この2人の話が本当なら(嘘を言うはずはないが)、家賃はタダ。そんなアパートが普通なはずがない。先程大家さんに問題があると言っていたが、大丈夫なんだろうか。
「あの、大家さんの問題って言うのは…」
俺の言葉に「ん?」と反応すると、斉藤さんは悪戯っぽく笑う。
「そんなの、行ってみてからの方が楽しくない?」
この人は本当に仕事している気があるのだろうか。
最寄り駅『八千代台』から、デパートを抜けて真っ直ぐ道を進んだ先のゲームセンター。その裏手の道を左に曲がり、40メートルほど進んだところにある駐車場を右に曲がってすぐ右手にある、見た目真新しいアパート。これが、斉藤さんの紹介してくれたアパートだ。
斉藤さんが言うには、「アポは取っておいたから、後は203号室の大家さんの部屋で楽しんで来てね」と。
何をどう楽しめというのかはわからないが、とにかく大家さんに自己紹介はしておくべきだろう。
「それにしても、キレイで助かった」
はっきり言って、某ジブリの「お化け屋ー敷ぃー」を想像していた。このキレイさでタダだと言うのだから、感謝しなければならない。
カンッカンッという音を立てながら、俺はアパートの階段を上がっていく。辺りは意外と静かで、この白塗りの壁に反響するのは、俺の立てている階段の音と、時折聞こえる車の音だけだ。
203号室の前に着くと、俺はインターホンのボタンに指を触れる。そしてひとつ深呼吸をすると、思い切って押した。
ピンポーンと、耳慣れた音と共に、しばらくしてガチャッと応答の音が聞こえた。
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