花は咲く

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 私は泣いていた。  桜の木からは葉が全て散り、桜は裸になっていた。そんな桜の木を眺めることもなく、最近の先生はほとんど眠っている。 「そんなに泣いてたら先生が起きちゃうよ。君が泣いてちゃ先生も心配で退院できないよ。」お姉ちゃんが私の頭を撫でながら言う。  先生の退院が決まったそうだ。私はすごく悲しかったけど、先生は退院したら、先生の子どもの家族と一緒に暮らすらしい。私もお父さんとお母さんと早く一緒にいられるようになりたいから、先生もきっとそんな気持ちなんだろうなと思った。 「来週には退院するんだってね。ずいぶん長く一緒の部屋だったから、やっぱり悲しいね。」おばさんが泣きそうな声で囁く。 「でも先生も家族といられるようになるから嬉しいだろうね」そうお姉ちゃんが言うと、どうなんだろうねぇ、とおばさんが呟く。 「でも先生、退院したらお花見したいって言ってたからきっと退院決まって喜んでるよ」私がそう言うと、おばさんは「そうだね」と笑ってくれた。 「そうだ」  お姉ちゃんが少したってから呟いた。 「どうしたんだい?」おばさんがお姉ちゃんを見る。 「お花見やろうよ。先生が退院しちゃう前に、みんなで」  私はそれを聞いてすごく興奮した。 「やりたい!先生と一緒にお花見したいよ!」お姉ちゃんの考えに私は大賛成だった。 「若い子が考えることはやっぱり青いね」おばさんがため息交じりに言う。 「お花見をしようにも今は冬じゃないか。春にやるお花見を今やるなんて早すぎるよ」  確かに冬に花は咲かないなと私も思った。お姉ちゃんが言ったからできるような気もしたけど、やっぱり無理なんじゃないかと思った時、「桜は咲くよ」と、お姉ちゃんが言った。お姉ちゃんは笑っていた。だけど、いつも以上に頼もしい顔をしていた。 「お花見をするにはまだまだ早いよ」 「本当に桜が咲くの?」  おばさんと私の声が重なる。 「おばさんも君も忘れちゃったの?」お姉ちゃんはにやにやしながら言う。 「何かをするのに早いとか遅いとかはないのだよ」  おばさんが吹き出す。そうだったね、と言いながら笑っている。それにつられて私も笑う。 「本物の桜じゃなくて、偽物の桜を咲かせるんだよ」お姉ちゃんが言った。 「どうやって偽物の桜を咲かせるの?」私は尋ねる。 「これを使うんだよ」と言って、お姉ちゃんはベッドを仕切るカーテンを引っ張った。
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