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部屋に戻ると先生のベッドの横におばさんが座っていた。私たちを見ると安心したように笑って「おいで」と口を動かした。
先生のところに行くと疲れた顔をした先生が座っていた。私はいつものようにベッドの上に座る。
「先生、明日退院するんでしょ?」私がそう言うと、「そうだよ」と先生は小さな声で答えた。
「退院したらお花見がしたいって先生言ってたでしょ?まだ退院はしてないけど、今日ここでお花見しようよ!」
私がそう言うと、先生は少しの間黙った。しかし、徐々に先生の表情が崩れていく。
先生の笑い声を私たちは初めて聞いた。
「お花見をするにはまだ早いよ」先生は言いながら笑っていた。どのくらいの間笑っていたのかは分からないが、先生はすごく長い間笑っていた。そんな先生を見て、私もお姉ちゃんもおばさんも笑った。
一通り笑いつくした後に、お姉ちゃんが窓のカーテンに歩み寄る。
「先生、桜は咲いてんだよ。今が見ごろの満開だよ」お姉ちゃんは言い切るかどうかのところでカーテンを一気に開けた。
窓の外には葉を1枚もつけていない桜の木が並んでいた。満開と言う言葉の対極の状態だった。
「なんで?」私は慌てて窓に駆け寄り外を見る。お姉ちゃんも「嘘でしょ?」と驚いている。
外を見ると桜の木の下にカーテンが落ちているのが見えた。失敗だ。そう思った。先生に桜の花を見せてあげることができなかった。そう思うとすごく悔しかった。
「素晴らしい」
後ろから先生の声が聞こえた。
振り向くと先生は泣いていた。
「散ってもなお美しい。飾らない桜もいいものじゃないか」
泣きながら先生は裸の桜を眺めていた。その姿を見て、私は初めて人間臭い先生を見たと思った。
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