退院

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 ある日、同じ病室だったお姉ちゃんが退院した。 「脚も治ってようやく大好きなバスケができるよ!」お姉ちゃんは笑いながら喋っていた。 「お姉ちゃんはもういなくなっちゃうの?」退院というもの自体を知らなかった私はそう尋ねた。 「病院は体のどこかが悪い人がいるところだからね。元気になったお姉ちゃんは出て行かなきゃいけないんだ」  それを聞いた私はなんだか悲しくなった。いつも一緒にいた人がいなくなるのは悲しいことだ。それは入院するときにも味わった。しかし今回のお姉ちゃんの退院はそれとは違った。何かは分からないが、そこには確かに恐怖があった。私は泣きそうになる。 「泣かないで。またすぐに、今度はお見舞いに来てあげるから」そう言ってお姉ちゃんは私の頭を撫でた。  お姉ちゃんが部屋から出ていくと、部屋が寂しくなった。私がまた泣きそうになっていると「おいで」と、おばさんが呼んでくれた。 「お姉ちゃんがいなくなったことがそんなに悲しい?」私は頷く。 「あなたは早く退院したい?」また頷く。 「お姉ちゃんもね、きっとそうだったんだよ。だから、まずはお姉ちゃんの退院を喜んであげなくちゃね」私は、うん、と呟いた。 「おばさんもいつか退院しちゃうの?」 「そうだよ」おばさんは笑顔で答える。 「じゃあ先生もいつかは退院しちゃうの?」そう言うとおばさんは一呼吸おいて、「そうだよ」と優しく言った。  先生の方を見ると、いつものように外の桜の木を見ていた。緑の葉が涼しげに揺れていた。  私は先生のベッドに座ると、「先生は退院したら何をやりたい?」と尋ねた。すると先生は、お花見がしたいねと言った。後ろから、本当に先生は桜が好きだね、と言うおばさんの声が聞こえた。
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