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「春より桜の木が赤いね」私は先生に話しかける。
「紅葉しているのだよ。冬に備えて準備しているのだ」
「なんで冬に向けて準備しているの?」
「冬になると木の食べるものがなくなってしまうから秋のうちに準備しているのだよ」
「木は偉いね」そう言って私は窓の外を見渡す。すると1本の木だけがまだ少しだけ緑が残っていた。
「あの木だけまだ緑色だよ?大丈夫なのかな?」先生の服を少し引っ張る。
「まだ冬までには時間があるさ。紅葉するのに遅すぎる時期でもないよ」そう言って先生は横になった。
「先生眠いの?」
「秋は食欲の秋と言われているからね。私も少し食べ過ぎて眠くなったのだよ」
「先生お昼ごはん残してたじゃん」私が笑うと先生は、あれでもたくさん食べたのだよと言って目を閉じた。
それから先生はよく寝ていることが多くなった。起きていても、横になったまま窓の外を眺めていた。
もう少しで冬になるんじゃないかと思い始めていた日のこと、お昼寝から起きるとおばさんのベッドの横に退院したお姉ちゃんが座っていた。
「おはよう。ちょうどお見舞いに来てたんだよ。元気にしてたか?」笑いながらお姉ちゃんが言ってくる。
私は久しぶりにお姉ちゃんに会えたのが嬉しくて、ベッドから降りてお姉ちゃんに抱きついた。お姉ちゃんは髪が前よりも短くなっており、どうして?と訊くと、この方が運動しやすいんだよ、と笑った。
「お姉ちゃん秋はなんて言われてるか知ってる?」私は得意げに訊く。
「運動の秋だろ?最近は寒くなって来たけどやっぱり運動しやすいよ」とお姉ちゃんが笑う。
「違うよ。食欲の秋って言うんだよ。だから先生は食べ過ぎちゃって眠くなるって言ってたもん」少し納得がいかず私は先生の方を指さす。
「そうなんだ」お姉ちゃんはそう言って「だから最近は横になってるのか」と悲しそうに笑った。
「なんでお姉ちゃん悲しそうなの?」私がそう尋ねると「秋は『悲しみの秋』とも言うんだよ」と言って私の頭を撫でた。
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