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一方の少女=スノウは、了承を得られたことに安堵の息を吐き、知らないうちに入っていた肩の力を抜いた。こう何度も緊張しては、体が持たないと思いながら――それでも、蓮の傍に居たいと思った。今日だけは、と。
また静かな時間が流れ、蓮が皿からピラフを掬う時にスプーンと皿の当たる音だけがカチャカチャと響いた。それもわずか2,3分のことで、中身が空になると同時に蓮は立ち上がる。それを静かに見送りながら、スノウは蓮を目で追った。
(この姿、一生忘れないから……)
スノウは瞼の裏に蓮の姿を焼き付けようと、ただ必死になっていた。
食器を流しに置くと蓮は寝室に行き、朝放り投げた鞄を持って再びリビングに現れた。
中身をガサガサと漁る蓮を隣で見ながら、スノウは覗き込むわけにはいかないと思い適当に視線をそらせるべく室内をぐるりと見渡す。
少し変わった24時間の針時計。その下には飾り棚があって、たくさんの写真が飾られているのが目に留まった。
舞台仲間との写真。『スノウ』とその中身を演じた少女と蓮。お婆ちゃんと二人の蓮。蓮の周りにはたくさんの人が溢れている。その写真たちを遠目に見ながら、自分と蓮との間にある距離をスノウは感じた。
でも、今だけは私が独占している。その気持ちだけで何とか気持ちを浮上させ、ぎゅっとスノウは拳を握りしめた。
ふとスノウが横を見ると、蓮は鞄から出したらしい台本を開いていた。じっと食い入るように無言で台本を見つめる蓮に声を掛けることも出来ず、その横顔をそっと覗き見る。
(写メ、撮ったら駄目だよね)
ただ傍に居たいだけ、それが約束の条件。それが形に残れば、辛くなるのは自分だと言い聞かせた。
足を組みかえ、腕を組む。また伸ばして今度は手を上に挙げる。手のひらが目を覆ったかと思うと俯いて、何かをブツブツ言ったかと思うと、ぽたぽたと蓮が涙を流していた。
「あ……」
すっと綺麗に泣く顔を見て、思わずドキリとした。この人はやっぱり『演者』だ。ただ顔の良い俳優じゃない。それを目の当たりにして、ぐっと胸が痛む。
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