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思わず漏らしてしまった声に、ぱっと蓮が顔を上げてスノウを見た。まだ頬に涙の筋が残ったその顔で。
「ご、ごめんなさいっ」
「いや、こっちこそごめん」
失礼なことをしたのはスノウのはずであったが、同じように蓮も謝った。どうしてこんなに台本の世界に入り込めたのか不思議なほど、蓮は隣に人が居ることも忘れて没頭していた。
涙を流したのは4場。ゆうに30分は経っていた。
(コイツ、ほんと存在感無いな)
空気のような存在、その言葉を恋人なら使うのかもしれないが、今の自分とスノウの関係では違うだろうと感じて蓮は首を振る。居心地がいい、その言葉が出かかりそうになって、慌ててその考えを消した。
「私、邪魔ですよね」
「大丈夫だ」
濡れた頬を鞄に放り込んでいたままになっていたタオルでごしごしこすると、パッと顔を上げて蓮はスノウを見つめた。
申し訳なさそうな顔をしているスノウを見つめて、蓮はトントンと自分の頬を緩く叩く。見つめながらふと閃いて、気付けば深く考えないまま思ったことを言葉にしていた。
「スノウ、いくつ?」
「え?」
「歳だよ」
「えと、19」
「そか。高校生だったらどうしようかと思ってた」
「どうせ、童顔ですよっ」
いつも幼く見えることをコンプレックスに思っているスノウが拗ねてそう言うと、蓮は初めて屈託なくクスクスと笑った。
「そう言うなって。悪いことじゃない」
笑いながら蓮がそう言うと、スノウは蓮の顔を見て顔を赤らめた。初めて笑うその顔が、テレビで見るものと違った気がして……なぜか特別さを感じたからだ。
「どうした?」
固まるスノウを見て蓮が尋ねると、プルプルと首を振る。その様子がおかしくてさらに笑う蓮に、ただスノウはプルプル震えていた。
そこには何も笑いの言葉はないのに、温かで仕方がない。蓮は、なんの柵もなくただ純粋な気持ちで笑う久しぶりの感覚に、気持ちがスッとして心地よくなった。
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