前編

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 バタン  その音が聞こえた後、慌ただしく電話を切ってリビングに飛び込んだが、蓮の目にはさっきまで居たはずの少女の姿が目に映らなかった。  「スノウッ!」  叫んで見つかるはずもないとは頭では分かっていても、そう叫ばずにはいられない。何度もスノウと呼びかけては部屋を一周し、トイレかもしれないと覗いてみる。玄関まで行って靴が無いことに気づき、スノウ、スノウ、と目じりを滲ませながら蓮は叫んだ。  まるで、ドラマをもう一度やっているようだった。  ドラマ『スノウ』の雪だるまであるスノウは、数日間雪が降らなくなって溶けて消えかけていた。そしてあのシーンに辿りつく。翌朝には溶けているだろうと確信した少年が、雪だるまに声を掛けたのがあのシーンだった。  しかしその晩、天気予報とは打って変わった突然の豪雪がその地域を襲う。一晩にして再び銀世界が戻ったその町には、スノウの影はなくなっていた。  スノウは埋もれたのか、消えてなくなったのか――いずれにせよ、溶けてなくなったという形で失われなかった。  蓮は同じだと思った。  また自分は、スノウが消えた瞬間に立ち会っていない。あれはまるで幻だったんじゃないのかと思うほどの、僅かの時間。  失うにはあまりにも大切過ぎた今日を振り返り、蓮はハッとした。  「俺の、刹那……」  呟くように漏れたその言葉にハハッと空笑いをしながら、ドサリとソファーに腰かけると、ようやくスノウが置いて行った封筒が目に入った。
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