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バタン
その音が聞こえた後、慌ただしく電話を切ってリビングに飛び込んだが、蓮の目にはさっきまで居たはずの少女の姿が目に映らなかった。
「スノウッ!」
叫んで見つかるはずもないとは頭では分かっていても、そう叫ばずにはいられない。何度もスノウと呼びかけては部屋を一周し、トイレかもしれないと覗いてみる。玄関まで行って靴が無いことに気づき、スノウ、スノウ、と目じりを滲ませながら蓮は叫んだ。
まるで、ドラマをもう一度やっているようだった。
ドラマ『スノウ』の雪だるまであるスノウは、数日間雪が降らなくなって溶けて消えかけていた。そしてあのシーンに辿りつく。翌朝には溶けているだろうと確信した少年が、雪だるまに声を掛けたのがあのシーンだった。
しかしその晩、天気予報とは打って変わった突然の豪雪がその地域を襲う。一晩にして再び銀世界が戻ったその町には、スノウの影はなくなっていた。
スノウは埋もれたのか、消えてなくなったのか――いずれにせよ、溶けてなくなったという形で失われなかった。
蓮は同じだと思った。
また自分は、スノウが消えた瞬間に立ち会っていない。あれはまるで幻だったんじゃないのかと思うほどの、僅かの時間。
失うにはあまりにも大切過ぎた今日を振り返り、蓮はハッとした。
「俺の、刹那……」
呟くように漏れたその言葉にハハッと空笑いをしながら、ドサリとソファーに腰かけると、ようやくスノウが置いて行った封筒が目に入った。
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