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目を見開いて、震える手でその封筒に手を伸ばす。封筒に乗ったままのペンを退けると、その表面に丁寧に書かれた字を目で辿った。
『やっぱりあなたは、素晴らしいアクターですね!』
その言葉を何度も読んで、熱くなる目頭を押さえても止められぬほどの勢いで、涙が零れ落ちた。
封筒を開けると、中に見える札束。
見なくても分かる。スノウはきっと、ピン札をご丁寧に方向揃えて、きっちり50枚入れているに違いない。
それが分かる自分があまりにも辛すぎて思い切り封筒を投げ捨てた。
「こんなもん、いらねーよ!!!」
俯いてぼたぼたと流れる涙を止めぬまま、蓮は唯一スノウが居た証である空のペットボトルに手を伸ばし思い切り抱きしめた。
「スノウ、行くなよ……スノウ、スノウ、……スノウッ!」
触れることも出来なかった。
それなのに、人生で彼の心に一番触れた。それがスノウだと蓮は思った。
思いながらも、もう取り戻すことのできない彼女との刹那を想って、ただ泣いた。
『一瞬』になんて、何の意味もない。
蓮はずっとそう思っていた。けれど、それは間違いだと気が付いた。間違いだと気が付いたけれど、その大切な一瞬は、僅かの間に鮮やかに蓮の前から消えた。
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