480人が本棚に入れています
本棚に追加
/43ページ
舞台【刹那との邂逅】公演最終日。
蓮の仕事は朝からしっかりと組まれていた。しかし蓮は頑として一つの仕事もしないとマネージャーに告げ、激怒されていた。
一向に全く首を縦に振らない蓮に、業を煮やしたマネージャーは怒り狂って叫んでいる。
「蓮、それじゃあ君は俳優としての君は終わるぞ!?」
「俳優としての君? それは役者椎名蓮のことですか」
「そうだ。今穴を開けることは、君にとって一分の利益も生まない」
そう言い切るマネージャーに蓮は大声で笑う。
この人は、知らないのだと蓮は思った。何を引き替えにしても手に入れたい刹那が、世の中にはあるってことを。
「日野さん。悪いけど、俺の刹那を取り戻せなかったら、どっちにしろ椎名蓮は死ぬよ」
「はぁ?」
わけの分からぬことを言い続ける蓮に気でも狂ったのかと思ったが、日野の目には連は狂ったようには映らない。それどころか確実に生気を漲(みなぎ)らせていた。
「悪いけど、もう行かせてくれ。頼む、後生だ」
「後生って、おい、蓮!!」
言いながら颯爽と駆け出した蓮に追いつけず、マネージャーの日野はマンションの駐車場で蹲った。多分、どうしても駄目なんだろう。今日の彼を止めることは――
そう納得したマネージャーは諦めてスマホを取り出した。メール作成画面を開いて、椎名蓮宛てに打ち込む。
『頼むから、ゴシップだけは勘弁しろ』
あそこまで言うのだから、相手は女に違いないと単純に日野は思った。
ストイックなまでに女性関係の綺麗すぎる椎名蓮。だからこそ、今日の異常な彼を日野は止めたくなかった。これからの自分がしなければならない『彼の不始末の始末』を思えば荷が重いが、それでもやってやるかと顔を上げる。
最初のコメントを投稿しよう!