刹那との邂逅―セツナトノカイコウ―【完】

後編

　３年の歳月、小春は片時もあの日を忘れたことはなかった。

　けれど、そうやってあの日を大事にして温めているのは、自分だけだと認識していた。だから蓮が自分を尋ねて来るなんてことは到底考えられず、そうかといって自分から会いに行くことは憚られた。

　『今日だけでいいです。二度とアナタの前には現れません』

　そう断言したのは自分だと、小春はしっかりと覚えていた。だからこそ、チケットを渡す行為すらも怖かった。近くに椎名蓮が居る、そう思えば彼の立つ舞台を見たい気持ちが起きた。けれど二度と目の前に現れないと自分の立てた誓いを破ってしまうことになる気がして、それも出来なかった。

　けれどどうしても、チケットを渡すことで自分の今を伝えたかった。

　蓮に言われて役者として自分も演じていること。そして『刹那との邂逅』の舞台。

　演出兼脚本家から、小春が出る最後の舞台をこれにしようと思う、そう打診された時、真っ先に頭に浮かんだのは蓮と過ごしたあの日だ。

　刹那、のタイトルに胸がざわついて止まらなくなり、小春は運命だとまで感じた。

　3年前のあの日、小春は19歳の誕生日を迎えた日でもあった。しかし一週間後に控えた手術を前にして小春の気分は鬱々としていた。食事制限にあれこれと過保護になる両親。
　カフェインがどうのと言われた時にはイラッとした。けれど強く言い返せない理由があった。

　『この手術は失敗例もあまりありませんし、問題ないでしょう』

　そう医者に提示されていたものの、０％ではない失敗例は小春を恐怖に陥れていて、ずるずると手術を先延ばしにしていたからだ。

　だから、それくらいは我慢すべきなのかとこらえていたことも、鬱々した要因でもあった。

　医者も名医だと言われていたし、両親も元々身体の弱い小春を心配して、早くに手術に踏み切れと説得していた。けれどどうしても首を縦に振れずにいたが、いよいよ引き延ばすことは望ましくないと言われ、誕生日の一週間後と期限を切られたのである。

　指折り手術日までを数えていたが、ある時ふと小春は思った。もしこのまま自分が居なくなれば、スノウのような素敵な出会いも別れも何にも出会えずに終わってしまうのではないか、と。