0人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
第1話 離婚
私は、もうすぐ定年を迎える。と、言ってもまだ4年もあるのだが!
そう、あと4年もある・・・短いのだろうか、長いのだろうか・・・
定年後の夢を妻と共有出来なくなって・・何年になるだろう。
すれ違いとか・・そんなレベルじゃない。話は普通に出来るし、いがみ合って喧嘩をする訳でもない。
それぞれが自分の行こうとする道を見つけて 歩き出した。その方向が違っていただけの事。
それは、私の母の死で決定された。両方の区切りの時期が一致したのだろうか。
葬式が終りしばらくして、何気なく出た言葉だった。
「これからどうする?」私は、妻の顔を見ないように聞いた。
「一人でのんびりしたい・・」妻は、こちらを見ていないのだろう。あちらを向いた声は、何事もないように、自然な声で、ハッキリとそう聞こえた。
意外と冷静に聞いていた私は。
「じゃ、分かれようか。」
「そうね。」
実にあっけなく・・幕が降りた。
数日後。私は、市役所から「離婚届」をもらい、妻に差し出した。その時、妻が出した条件は、2つ。
『今後10年間の生活の保障。』妻は、結婚以前からパート収入があった。それでも、一人暮らしをはじめるとなると資金的に無理があるのだろう。毎月、数万円の補助をする事になった。
『子供の世話。』 子供達は、30才近くになっていた・・・それぞれは、自分の家を持ち独立している。上の子は、最近、結婚をしているし、下の子は、結婚する気もないようだが。その時点では、親から経済的に独立していた。そんな訳で妻の心配は、世間一般で言う『厄介事が起きた時の世話』らしい。
私は、無用な心配だと一笑したのだが・・妻は、本気で心配していた。
「分かった。」私の答えに・・・
いつの間に準備したのだろうか、妻の差し出した便箋に2つの条件が書き込んであった。
「これにサインして。」
「ああ・・」
それが終わると、妻は、「離婚届」にサラサラとサインした。
実にあっけなく淡々と・・・離婚は成立した。
最初のコメントを投稿しよう!