第1話 離婚

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第1話 離婚

 私は、もうすぐ定年を迎える。と、言ってもまだ4年もあるのだが! そう、あと4年もある・・・短いのだろうか、長いのだろうか・・・  定年後の夢を妻と共有出来なくなって・・何年になるだろう。 すれ違いとか・・そんなレベルじゃない。話は普通に出来るし、いがみ合って喧嘩をする訳でもない。  それぞれが自分の行こうとする道を見つけて 歩き出した。その方向が違っていただけの事。  それは、私の母の死で決定された。両方の区切りの時期が一致したのだろうか。  葬式が終りしばらくして、何気なく出た言葉だった。 「これからどうする?」私は、妻の顔を見ないように聞いた。 「一人でのんびりしたい・・」妻は、こちらを見ていないのだろう。あちらを向いた声は、何事もないように、自然な声で、ハッキリとそう聞こえた。  意外と冷静に聞いていた私は。 「じゃ、分かれようか。」 「そうね。」  実にあっけなく・・幕が降りた。  数日後。私は、市役所から「離婚届」をもらい、妻に差し出した。その時、妻が出した条件は、2つ。  『今後10年間の生活の保障。』妻は、結婚以前からパート収入があった。それでも、一人暮らしをはじめるとなると資金的に無理があるのだろう。毎月、数万円の補助をする事になった。  『子供の世話。』 子供達は、30才近くになっていた・・・それぞれは、自分の家を持ち独立している。上の子は、最近、結婚をしているし、下の子は、結婚する気もないようだが。その時点では、親から経済的に独立していた。そんな訳で妻の心配は、世間一般で言う『厄介事が起きた時の世話』らしい。  私は、無用な心配だと一笑したのだが・・妻は、本気で心配していた。  「分かった。」私の答えに・・・  いつの間に準備したのだろうか、妻の差し出した便箋に2つの条件が書き込んであった。  「これにサインして。」  「ああ・・」  それが終わると、妻は、「離婚届」にサラサラとサインした。  実にあっけなく淡々と・・・離婚は成立した。 
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