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そのままぼんやりとドアに寄り掛かっていると、
「椎名」
その声に反応して、心臓がピクンと跳ねる。
見ると、渡り廊下の方から春山先生が足早に歩いて来るところだった。
ドアから身体を起こし、ひょこっと姿勢を正す。
――どうしよ……。目、合わせられない。
こういう時って、どこを見れば……。
「……どうしたの。目、泳いでるよ」
「……」
先生はくすっと笑って、
「今から俺、出かけるからさ。今日の下校放送、誰だっけ」
「あ、……わたしです」
「そっか。じゃ安心だな。よろしく頼むよ」
「はい」
――おでかけって、……どこに行くんだろう。
わたしが不思議そうな顔をしていたからか、先生はじっとわたしの顔を見つめて、
「まだ、内緒だよ」
「え?……はい」
少し声を抑え、
「雪村の居場所が、わかったんだ」
わたしは目を見開いた。
「本当ですか?」
「うん。友達を辿っていったら、中学の時に遊んでいたグループの奴らの家を転々としてることがはっきりした。
ちょっと遠いけど、今から車で榊先生と迎えに行ってくるから」
「雪村くんは無事なんですか」
「今のところは、たぶん」
「……よかった……」
「でも顔を見るまではまだ安心できないから、みんなには内緒」
「――わかりました」
顔を引き締め、しっかりと頷く。
「お前……」
「はい」
「キスマーク」
「……」
――だから、わかってます……。
っていうか。
「見てた、でしょ。……つけられてるとこ……」
顔を熱くしながら口を尖らせて言うと、先生は可笑しそうにくすくす笑った。
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