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*****  わたしは薄暗い廊下を小走りに進んで行った。  昇降口の脇を抜け、体育館に続く渡り廊下に降りる。  ――先輩――。  わたしは歩きながら、知らないうちに拳を握りしめていた。  きっとこうやって――万優架も、あの妊娠させられた子も、呼び出されたんだ。  そして、好きな人を守るために迷わず身を捧げた。  得体の知れないあの電話の声。  そして後ろで笑っていたたくさんの声。  恐ろしくないはずがない。  それでも彼女たちは危険を顧みず、自分から罠に飛び込んで行った。  愛する人を救いたい――その一心で。  ――わたしは?  わたしはどうなんだろう。  わたしは、……なぜ体育館に向かっているんだろう。  先輩が足を折られるような事態は、絶対に避けなければならない。  でも、それなら学校や警察に連絡を入れることが正しい対処だ。  それをせずにいるのは、『先輩が同罪である』というあの脅し文句だけが理由ではない。  わたしは今、試されている。  もし先輩への想いが本物なら、わたしは迷わずそこに向かうはずだ。  万優架や、あの投書の子や、――今まで、愛する人のために自分を捧げてきた彼女たちがそうしたように。  ……でも、ちがう。  今、そこに向かっているわたしの中には、本当はもっと、計算高いものが渦巻いている。  わたしが行かなければ、板東先輩を見捨てたことになる。  板東先輩に、恥をかかせるわけにはいかない。  先輩を、これ以上失望させるわけにはいかない。
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