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わたしは薄暗い廊下を小走りに進んで行った。
昇降口の脇を抜け、体育館に続く渡り廊下に降りる。
――先輩――。
わたしは歩きながら、知らないうちに拳を握りしめていた。
きっとこうやって――万優架も、あの妊娠させられた子も、呼び出されたんだ。
そして、好きな人を守るために迷わず身を捧げた。
得体の知れないあの電話の声。
そして後ろで笑っていたたくさんの声。
恐ろしくないはずがない。
それでも彼女たちは危険を顧みず、自分から罠に飛び込んで行った。
愛する人を救いたい――その一心で。
――わたしは?
わたしはどうなんだろう。
わたしは、……なぜ体育館に向かっているんだろう。
先輩が足を折られるような事態は、絶対に避けなければならない。
でも、それなら学校や警察に連絡を入れることが正しい対処だ。
それをせずにいるのは、『先輩が同罪である』というあの脅し文句だけが理由ではない。
わたしは今、試されている。
もし先輩への想いが本物なら、わたしは迷わずそこに向かうはずだ。
万優架や、あの投書の子や、――今まで、愛する人のために自分を捧げてきた彼女たちがそうしたように。
……でも、ちがう。
今、そこに向かっているわたしの中には、本当はもっと、計算高いものが渦巻いている。
わたしが行かなければ、板東先輩を見捨てたことになる。
板東先輩に、恥をかかせるわけにはいかない。
先輩を、これ以上失望させるわけにはいかない。
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