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「あーーーっ。椎名お前っ!」
「……」
――見つかった……。
わたしは天井を仰ぎたくなった。
だから一刻も早く部室から出たかったのに……。
「首筋にキスマーク!!」
「……」
――わかってます。
そのせいで部室が不穏な空気に包まれてることも……。
「とうとうヤッタんだあ。生々しいなオイ」
「……違いますけど。虫さされですけど」
「うわ、ベタなウソ。バンドエイド貼っちゃうくらいわかりやすいすっとぼけ方」
「ていうか田辺くん、声大きい」
「やめろよなぁ、昼間からそんなもん見せつけて。想像しちゃうだろぉー」
「だから、……そんなんじゃないって……言ってるのに……」
わたしは口の中でモゴモゴ言いながら、放送用の荷物を手早く引き出しに片付けた。
「……じゃ、そろそろ戻ります。お疲れ様でしたっ」
おつかれー、と返すみんなの視線を背中に感じながら、わたしはそそくさと部屋を後にした。
バタン、と閉めたドアに寄り掛かり、大きく息を吐く。
コンシーラーで隠したつもりだったんだけど……。
わたしはポケットから手鏡を出し、首筋を確認した。
――やっぱ、隠しきれてないか……。
小さな痣の向こう側に、ふと、苦しそうな先輩の顔が過る。
――先輩――。
無理やり首を吸われた時のちくりとした痛み。
きっと、先輩の心には今、この小さな痣とは比べ物にならないほど大きな傷が刻まれている。
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