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つられて笑みを浮かべながら、わたしは密かに、胸の奥の鈍い痛みに耐えていた。
――諦めなきゃ、いけない。
先生から、最後のキスをもらったんだから。それだけで充分だと思わなくちゃ……。
そう言い聞かせても、先生の微笑みが優しければ優しいほど、わたしの心は切なく軋み、哀しげな音を立てる。
この想いを完全に切り捨てることなんて、……わたしに出来るんだろうか。
その時、先生が何かに気付いて後ろを振り返った。
少し遅れて、わたしの耳にもドタバタという渡り廊下を走る足音が聞こえて来る。
「……先生!!」
春山先生の肩越しに、板東先輩の顔が見えた。
ずいぶん長い距離を走って来たらしく、肩で息をしている。
わたしに気付いて少し驚いた顔をしたけれど、すぐに先生に視線を戻す。
「俺も行きます、雪村のところ。キャプテンなんで」
「ダーメ。お前、授業あるだろ」
「でも…」
「大丈夫だから。榊先生も行くんだし、ちゃんと無事に連れて帰ってくるよ」
先輩はそれでも納得できないようで、唇を噛み締め、先生を凝視している。
――先輩……?
少し、意外な気がした。
確かに雪村くんはサッカー部だし、先輩はキャプテンだけど……。
そこまで思いつめたような顔をするほど、二人は親しかっただろうか。
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