1586人が本棚に入れています
本棚に追加
/33ページ
「わたし、別れるなんて、言いません」
「……?」
「まだ、ちゃんとしてませんでしたよね。お返事」
わたしは少し不安げに曇る先輩の目を見つめ返した。
――初めて、正面からまっすぐに。
「わたし、先輩のこと大切にしたいって思ってます。
先輩がわたしのことを想ってくれるなら、わたしもその想いに応えたいって」
「……」
「今は、そういう気持でも、――いいですか……?」
先輩は、しばらく黙ってわたしを見つめていた。
やがて優しく手を握り返し、ほっと息を吐く。
「よかった」
「……え……」
「絶対、振られると思ってたから」
先輩の顔に、何かから解放されたような柔らかな表情が降りた。
「めちゃめちゃ嬉しい。そんな風に思ってくれて」
本当に嬉しそうに、ふわりと笑みを浮かべる。
「俺さ、実はわかってたんだよね。萌ちゃんは俺の告白を断れなかっただけだってこと。
わかってたけど、――その萌ちゃんの優しさに甘えて、気付かないふりしてた。
側にいられるならそれだけでいいって、自分の身勝手、貫いて……。
まさに、藁にもすがる思い、ってヤツ。サイテーだよね」
わたしは言葉に詰まった。
先輩は、悪くない。――悪いのは、わたしなのに……。
「俺、萌ちゃんに本気で好きになって貰えるように、頑張るからさ。
すぐには無理でも、……少しずつ、好きになって貰えるように……」
「……」
先輩が、こんな風に思ってくれているんだから……。
それに応えられるよう、頑張らなきゃ。
最初のコメントを投稿しよう!