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「この前、あなたに『先生と付き合ってるんでしょ』って言われた時は、心臓か止まるかと思ったわよ。
勘が鋭いのね、椎名さんは」
わたしは曖昧に微笑んでおいた。
榊先生から香った、香水の移り香。
そして……。
『榊 鉄也』
消火器のケースに貼られていた防火管理責任者の氏名。
それを見てわたしは確信した。
『テツヤ』は、春山哲哉先生ではなく、榊鉄也先生だったということを。
「不倫なんて、軽蔑するわよね」
目を逸らしたまま、フジコ先生は自嘲するように言った。
「――模範解答では、『やめたほうがいい』これが、的確なアドバイスですよね。
個人的には……。ちょっと、わかんないな」
先生に、えへ、と笑顔を向ける。
「人の恋愛にとやかく言えるような人間じゃないんです。わたし」
「……」
フジコ先生は、ちらりとこちらを見遣った。
「――散々、とやかく言ってるじゃない。毎週毎週」
「……」
わたしは「ですね」と声を上げて笑った。
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