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5分ほどして、荷物を持った春山先生が戻って来た。
「先生……。やっぱり、わたし自分で帰れます。警察に戻るんでしょう?」
「お前を送って行くくらいは大丈夫だよ。乗って」
そう言って、助手席のドアを開けてくれる。
先生の顔は少し疲れていて、わたしは迷惑をかける事に躊躇していた。
「寒いから、はやく」
仕方なく、ぺこりと頭を下げてから車に乗り込む。
車の中は、さわやかな芳香剤の香りがした。
運転席に乗り込んだ先生がエンジンをかけると、温かいエアコンの空気が一気に噴き出した。
「さっきは」
視線を合わせないまま、先生が呟く。
「怒鳴ったりして、悪かった」
「……」
わたしは黙って首を横に振った。
先生がこちらに手を伸ばし、身を乗り出してぐっと顔を近付ける。
思わず固まると、その手はわたしを通り越し、シートベルトを掴んだ。
シュルシュル、と引き出してカチリ。と止める。
先生は自分もシートベルトを締めると、サイドブレーキを外した。
「それで。――お前の家、どこだっけ」
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