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黒のセダンは、滑るように夜の道を走っていた。
両側に立つ街灯が後方に流れ、光の筋を描いていく。
「……何?」
沈黙の後、先生が突然口を開いた。
「何か用があって待ってたんじゃないの」
「……」
自分でも、わからない。
「先生に……」
でも、――これだけは、確か。
「……先生に、会いたかったの」
ぼそっと呟いたわたしの言葉は、確かに先生に聞こえたはずだった。
道路が少し混み始め、先の信号に長い列が出来ているのが見える。
先生はウインカーを出して、信号の手前を左に入った。
しばらく走って、今度は信号のない交差点を右に入る。
「なんで、体育館に行ったの」
車が曲がるたびに、わたしのカバンについたキーホルダーが大きく揺れる。
「わかってただろ。危ない目に遭うって」
「……」
「――板東のため?」
細いバス通りは空いていた。
しばらく直進し、赤信号で車が停車する。
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