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「わたし、……先輩の気持ち、利用して」
ジャージを着た中学生くらいの男の子たちが、ネットに入ったサッカーボールを持ち、ぞろぞろと横断歩道を渡り始めた。
ふざけ合い、笑い合いながら、楽しそうに通り過ぎていく。
「自分の、都合のいいように利用して、傷つけて……。
わたし、先輩にひどいことばっかり……」
「だから?」
先生は、前を向いたまま言った。
「だから罪滅ぼしのつもりで、生け贄になろうとしたの?」
「……」
歩行者信号が点滅を始める。
「そんなことしちゃだめだ」
先生の口調に、いつもより少しだけ力が入った。
「お前が自分を責める気持ち、……わかるよ」
「……」
「だからって、……自分が被害者になる事でそれを償ったつもりになるのは、間違ってる」
点滅する信号に慌て、列の後方の男の子たちが駆け足で渡って行く。
「ちゃんと、まっすぐに反省しなさい。
それで……。いつか、少しずつ自分を許してあげるんだ」
わたしは視線を先生に向けた。
「……自分を……」
「だってお前も、……ものすごく、傷ついてるだろ」
「……」
「自分を許してあげなきゃ、かわいそうだ」
信号が青になり、車は静かに走り出した。
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