-2-

5/7
前へ
/32ページ
次へ
「わたし、……先輩の気持ち、利用して」  ジャージを着た中学生くらいの男の子たちが、ネットに入ったサッカーボールを持ち、ぞろぞろと横断歩道を渡り始めた。  ふざけ合い、笑い合いながら、楽しそうに通り過ぎていく。 「自分の、都合のいいように利用して、傷つけて……。 わたし、先輩にひどいことばっかり……」 「だから?」  先生は、前を向いたまま言った。 「だから罪滅ぼしのつもりで、生け贄になろうとしたの?」 「……」  歩行者信号が点滅を始める。 「そんなことしちゃだめだ」  先生の口調に、いつもより少しだけ力が入った。 「お前が自分を責める気持ち、……わかるよ」 「……」 「だからって、……自分が被害者になる事でそれを償ったつもりになるのは、間違ってる」  点滅する信号に慌て、列の後方の男の子たちが駆け足で渡って行く。 「ちゃんと、まっすぐに反省しなさい。 それで……。いつか、少しずつ自分を許してあげるんだ」  わたしは視線を先生に向けた。 「……自分を……」 「だってお前も、……ものすごく、傷ついてるだろ」 「……」 「自分を許してあげなきゃ、かわいそうだ」  信号が青になり、車は静かに走り出した。
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1352人が本棚に入れています
本棚に追加