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「雪村くんが、全部話してくれたのよ」
「やっぱり……」
わたしはミルク入りのコーヒーで両手を温めながら、頷いた。
「やっぱり、って?」
「雪村くん、口軽そうだから」
「あら、そんなことなかったわよ。聴き出すの、すごーく大変だったんだから」
カウンセリング室に着いた時、部屋の中はすでにコーヒーの香りで満たされていた。
フジコ先生はこんな時に大がかりな書類整理をしていた。
頭の中を整理する必要があるときは、いつもこれを始めるらしい。
「……大変、て?」
「榊くんが必死で聞き出そうとしても、まったく話が進まなくてね。
そりゃ、雪村くんとしたってさすがにこんな大事件だもの、簡単に話すわけにはいかないじゃない?
――ところがね」
フジコ先生はなぜか声をひそめた。
「途中で春山くんにバトンタッチしたら――絶妙にカマかけまくって、あっという間に全部、聞き出しちゃったのよ。最後には体育倉庫っていう場所まで。
……春山くんて……時々、おそろしいわ」
――わたしもそう思います……。
フジコ先生は、選り分けた書類を足元の段ボールにドサッと入れた。
「サッカー賭博の件、聞いた?」
「あ……はい、あの都筑って人から」
「じゃ、生け贄、っていう話も?」
「……はい」
わたしはマグカップに目線を落とした。
「みんな、どうして抜けるって言えなかったんだろう。もう、やめようって。
……だってみんな、力で押さえつけられていたってわけじゃないんですよ?
誰かに怯えてるってわけでもなくて、すごく仲良しだし……。
いったい、何があの人たちを縛り付けていたのか…」
「友情よ」
「――友情――?」
わたしは先生の言葉の意味が分からず、首をかしげた。
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