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「集団心理のひとつ、っていうと分かりやすいかな。 遮断された空間では、一般常識では考えられないような『美徳』が生まれることがあるの。 例えばね、――誰かが自分の彼女を差し出すとするでしょう。 みんなが、その子を暴行したとする。 また次に負けた子が、彼女を差し出すことになったとして……。 そのとき、当然葛藤があるわよね。 ――でも、その子も結局、差し出さざるを得ないのよ。 すでに友人のカノジョに乱暴しちゃってるわけだから、――自分だけ差し出さない、なんて、できないわけ。」 「そんなの、友情じゃない」 「友情なのよ。そして、彼らにとってのスポーツマンシップ。 ……すごく、間違ってるけどね。」 「……」  本当に、すごく間違っている。  あの集団の中に、確かに友情は存在していた。  あの部屋で、板東先輩を思いやる声も、実際に聞かれた。  ――でも……。  なぜ、縛られている板東先輩のロープを解くことは、誰も考え付かなかったんだろう。  みんなが悪魔のような人間ではない。ひとりひとりは、友達思いの、普通の高校生にすぎない。  ただ……間違ってしまっていた。  あそこにいる誰もが、このループが終わる事を望んでいたのに。  この悪夢のような遊びがいつまで続くのか、不安で仕方がなかったのに。  それでも、仲間を裏切ることこそ悪だと思い込み、あの小さな空間でのルールを、ただひたすら、仲良く守り続ける事しか出来なかったのだ。
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