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「ねえ」  コーヒーのお代わりを淹れながら、フジコ先生が言った。 「雪村くん、…どうして失踪なんかしたと思う?」 「……?」 「あの子らしい理由よ」  フジコ先生はその場でコーヒーを一口飲んでから、「にがい」と呟いて、ポットのお湯を足した。  マグカップを手に、こちらに戻ってくる。 「春山くんが見つけた本、あったでしょ。何かが挟んであったっていう…」 「あ……はい」 「あの本に挟んであったのは、――ハンデ表だったの。 ハンデ表って、普通は野球賭博に使われるものなんだけどね。 簡単に言うと、賭けの倍率表、かな。 弱いチームほど倍率が高くなって、強いチームは低くなる。 チームの調子にも左右されるから、毎回変動するものなの。 その閲覧方法なんだけど――。 メールでばら撒くのは、誰の目に留まるか分からないから危険でしょう? 送信者も特定されてしまうし。 部室だと、昼間は鍵かかかっていて出入りが出来ないし、榊くんの目が届く場所だから避けたい。 その点、――図書室の本に挟むっていう方法は、最適だったのね」 「そうですか?逆に、みんなの目に触れそうな気もしますけど」 「でも、万が一見つかっても、メールと違って受け取る人物や発信する人間が特定できないわよね。 それに、ハンデ表の意味を知らない、賭けに参加しない人間にとっては、ただの落書き、紙くずでしかない」 「……確かに、そうかも……」 「実際、この方法を取るようになってから今まで、一度もトラブルは無かったらしいわ。でも……。 雪村くんが、やらかしたの」 「……?」 「ハンデ表閲覧の仕組みについて、まず説明しようかな」  フジコ先生はコーヒーを一口啜った。
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