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「毎週月曜日、当番の担当者が胴元の――胴元って、賭博のとりまとめ役のことね。 胴元の都筑くんからハンデ表を受け取って、あの本に挟んでおく決まりになっていたの。 みんなはそのハンデ表を見て、賭けるチームを決めるわけなんだけど……。 あの時当番だった雪村くんが、都筑くんから受け取ったハンデ表を挟みに行くの、すっかり忘れていたんですって。 賭けの締め切りは金曜日なのに、ギリギリになって気づいたわけ」  フジコ先生は困ったように微笑んだ。 「それを思い出して逃げ出した、っていうのが真相、かな」 「ちょっと待ってください。じゃあ……あの原稿をわたしに読ませたのは、誰だったんですか」 「サッカー部員の誰かじゃないかって。……たぶんキャプテンだって、雪村くんが」 「……なんのために?」 「催促、よ」  先生は、コーヒーを啜った。 「ハンデ表がなかなか差し込まれない。でも、都筑先輩にそれを言ったら、きっとその当番の子が怒られてしまう。 誰が当番なのはみんな把握していなかったみたいだから……。 だから、心配したキャプテンが気を使って、放送っていう手を使って、学校中にあのメッセージを流して催促したんじゃないか、って」 「……」  ――あり得るかもしれない。  板東先輩ならそんな時、仲間をかばおうとするかも……。 「実際、雪村くんはあの放送を聞いて思い出したそうよ。 急いで挟みに行こうしたけど、肝心のハンデ表が見当たらなくて、慌てて家に帰ったんですって。 探したけど結局、失くしちゃってたみたいで。 締め切りの当日までハンデ表を挟むのを忘れてて、しかも失くしたなんてことになったら、都筑先輩たちに何されるか……。 だから、震え上がって逃げ出した、ってわけ」 「万優架を残して、ですか?」  わたしは思わず大きな声を出した。
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