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「いいですか、さゆり様。この度のご婚約は決っっっっっっして!政略婚約ではありません!」
車に乗ってから何度も聞いた言葉。私は隣でしかめっ面をしている菫さんを見た。
「菫さん、それ何回もきいてます」
「だって!姫様が勘違いしてらっしゃるから!」 「勘違い、ですか…」
本当にそうだったら良かったのに…
私はため息をつきながら窓の外を見た。
私、白百合さゆりは突然婚約することになりました。理由は菫さんは否定してくれているけれど、紛れもない政略婚約。白百合家元当主、今は亡き父・幽山が『娘を親愛なる四季家前当主との約束に基づき、現当主と婚約させる』という言葉を遺した為。今はその四季家のお屋敷に向かっている途中です。
「けれど、現当主の鏡夜様はどんなお方なんですか?お会いしたことあるんですよね?」
菫さんが不思議そうに訪ねてくる。
「私も小さい頃に数回しか会ったことないんですけど…優しい、という印象が強く残ってます。ちょうどあの人が来た時期だったから余計そう感じていたのかもしれませんが…」
「樒様ですか…」
途端に菫さんの表情が暗くなる。多分私も同じような表情になっているのだろう。
「ま、とにかくその鏡夜様が変わっていないことを信じましょう!」
菫さんが私気遣うようににっこり笑う。すると、車がゆっくり停車した。 「さゆり様、四季様のお屋敷にご到着しました」
「ありがとうございます」
運転手さんにお礼を言い、菫さんの後に続いて車から降りた。
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