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うっすらと目を開けると木製の天井が見える。
体を起こすと、襖の隙間から淡い光が漏れていた。時刻を見ると午前6時。
「まだ少し早い…」
散歩でもしようかな。庭が綺麗だった気がする…
私は浴衣を整えて、外に出た。
春の朝はまだ肌寒く、腕をこすりながら廊下を歩く。
庭は思った以上に整えられていて、桜の花弁が数枚舞っている。
廊下に腰を下ろして、座る。
四季っていうくらいなんだから、色んな花を植えているのかな
そんなことを思いながら、心地よい風に当たっていると肩に何かが掛けられた。
驚いて後ろを向くと、斗真さんがいた。
「こんなところにいては寒いですよ、奥様」
にっこりと笑いながら斗真さんが言う。
「お、奥様…?」
「鏡夜様とご婚約されているので、のちのちそういう立場になるかと…」
正論を言われて、ぐっと詰まる。けれど“奥様”と呼ばれると、まだ実感がないというか、とにかく違和感がたまらない。
「あ、あの…奥様じゃなくて昨日みたいにさゆりでいいです。斗真さんとは歳が一緒なのでそう言われると、ちょっと変な感じがするというか…」
私の言葉に困惑したように斗真さんが眉を寄せる。
「…では婚約の間はそう呼んでもよろしいでしょうか?」
「はい、ぜひ」
良かった、と思い一息つくとカーディガンが肩にかけられていることに気がついた。
「あ、すみません!」
慌てて立ち上がり、礼を言う。
「カーディガン、ありがとうございます」
「いえ、奥様…ではなく、さゆり様の手助けをするのも私の仕事の内ですから」
出会った当初のようにまた綺麗な笑顔で斗真さんはそう言った。
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