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つまらない人生だった。
……とでも言えば、これから待ち受ける死も多少は怖くなくなるだろうか。
ビルのてっぺん、普通の人なら尻込みするこうなこの高層ビルは、俺が10年間働かされた醜い事務所だ。
幼い頃に子役としてデビュー。子供離れした大人っぽい発言や雰囲気で一躍有名になった。
今思えばただ生意気なガキであろうが、そのガキが、金しか目のない大人どもには大金の出処に見えたのだろう。
ガキの頃から芸能界にいると、大人の裏事情だとか社会の厳しさだとか、黒黒しい部分が嫌でも目に入る。そういうものを10年もの年月見てきた俺は、もう疲れたのだ。
もう18になった。
最近は脱ぐ撮影も増えた。
ドラマの主演や歌手デビュー、バラエティも引っ張りだこ。
子役となれば、だいたいが大人になるまでに売れなくなるが俺は違った。
10年経った今も、売れ続けている。
親は「お前には才能があるんだから、このまま頑張りなさい」と言っている。金に目が眩んでいるのが見え見えだ。
――そう、もう疲れたのだ。
死んで楽になって、ゆっくり安らかに眠りたい。
誰にも追い回されず、自由な生活がほしい。
俺のこの願いは、死なないと叶わないのだ。
だから、そう、ここから一歩、たったの一歩踏み出すのなんて、怖くもなんともない。怖くない。
一歩踏み出すだけで、あとは自動的にあの世行きだ。だから、怖くなどないんだ。
「……はは、あと少しで死ねるんだぞ……」
嬉しい、待ち望んだことなのに体が震えて、たった一歩が踏み出せない。
「情けねえ」
最期に一言呟いて、俺はその一歩を踏み出した。
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