第1話

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私が中学生になった頃、母は突然近所の市民農園を借りた。 母が発した市民農園という言葉自体、何の事やら分からなかった。 取り敢えず、土と長靴のイメージだけは浮かんだけど。 元々、植物を育てるのが好きな母。 ベランダや玄関で、チマチマとプランターで植物を育てるのが嫌になったとかで、近所に空きの出た市民農園を借りたそうだ。 市民農園は、畑の持ち主が、畑をいくつかの区画に分割し、その土地で植物を育てたい人に安く土地を貸しているところ。 最近、人気らしく、なかなか空きが出ず、数年待ってやっと出た場所。 家からも近く、場所も悪くない。 その市民農園は、15名ほどの男女が借りていて、それぞれの区画に、季節の野菜を育てている。 嬉しそうに話す母を見ていると、ちょっと悔しくも感じた。 何に悔しさを感じたのかは、自分でも良くわからなかったけど…。 そして、母は私が高校生になる頃には、多種多様な季節の野菜を育て、食卓に並べる。 色白だった母の顔が、健康的な色をした笑顔になって行く。 ご飯も、モリモリ食べるようになり、元気ハツラツといった姿に、始めは驚いていたけど、本人が生き生きとしているので、文句も注意もしなかった。 でも…気にはしてあげるべきだった…。
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