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『いただきます』
皆の声が揃う。そして、一斉に食べ始めた。
「今日、マリアちゃんと一緒に買い物に行っはんはへぼは」
「話しながら食うな」
アインが軽くミラの頭を叩く。ミラは頷くと、すぐに口の中の物を飲み込んだ。
「で、買い物に行ったんだけど。治安よくないね、最近」
「なんだ、そのことか」
ニコラがスプーンを置く。既に状況は把握していたらしい。
「なんだ、ってニコラちゃん、そんな軽々しくいやニコラごめんなさい」
手を振り上げたニコラに、ミラは慌てて謝罪する。ニコラは手をおろし、一度目を閉じる。
「話は聞いてたからな。最近、この辺を拠点とする盗賊がいるらしい」
「ああ、俺も聞いた。盗品だからだろうな、珍しい品を変に安く売ったりしてる。あんなに安くちゃ誰も引っかからないだろうが」
「あ……」
「え?」
マリアが目を伏せる。思い当たる節が有るらしい。不安になるアインとニコラ。
「おい、マリアまさか……」
「大丈夫、私が制したから買ってない」
「すみません、そんなものだったとは……」
「気づけって言いたいが、まぁマリアにはまだ無理だろうな」
ニコラがマリアの肩に手を乗せる。慰めているつもりらしい。
「……ありがとうございます、ニコラさん」
「ひゅー、ニコラちゃん優しい!」
「……黙れ馬鹿魔女。さて、その盗賊について話を戻そうか。もうすぐ、討伐作戦が下されるらしいな?」
ニコラがアインの方を向いて言う。
「だろうな。このまま盗賊を野放しにしておくわけにはいかない」
「もう大筋の計画は決まっていると噂されている。今回は一般の戦闘職に協力してもらう部分が多いと、さっき会った用心棒が言っていた」
「え……?」
アインの表情が固まった。他3人は理由を察することが出来ない。
「アイン、何か気になるの?」
「ミラ……俺、その話聞いてないんだ……」
「ああ……一応勇者なのにね……」
「………」
この4人の中で、アインだけ何故か有名ではない。魔王討伐チームのリーダーなのだが、人によっては、勇敢な『3人』が魔王を倒し世界を救ったと思っている程だ。当然、いなかったことになっているのはアインである。
「いや、きっと連絡が遅れてるだけだって!」
「ああ……だと思うけどな」
ミラのカバーを余所に、アインは虚ろな目で食器を置く。
無駄に重い空気が、勇者の食卓を包み。その日の晩餐は終了した。
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