3食目・存在感は食事で補えない

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『いただきます』  皆の声が揃う。そして、一斉に食べ始めた。 「今日、マリアちゃんと一緒に買い物に行っはんはへぼは」 「話しながら食うな」  アインが軽くミラの頭を叩く。ミラは頷くと、すぐに口の中の物を飲み込んだ。 「で、買い物に行ったんだけど。治安よくないね、最近」 「なんだ、そのことか」  ニコラがスプーンを置く。既に状況は把握していたらしい。 「なんだ、ってニコラちゃん、そんな軽々しくいやニコラごめんなさい」  手を振り上げたニコラに、ミラは慌てて謝罪する。ニコラは手をおろし、一度目を閉じる。 「話は聞いてたからな。最近、この辺を拠点とする盗賊がいるらしい」 「ああ、俺も聞いた。盗品だからだろうな、珍しい品を変に安く売ったりしてる。あんなに安くちゃ誰も引っかからないだろうが」 「あ……」 「え?」  マリアが目を伏せる。思い当たる節が有るらしい。不安になるアインとニコラ。 「おい、マリアまさか……」 「大丈夫、私が制したから買ってない」 「すみません、そんなものだったとは……」 「気づけって言いたいが、まぁマリアにはまだ無理だろうな」  ニコラがマリアの肩に手を乗せる。慰めているつもりらしい。 「……ありがとうございます、ニコラさん」 「ひゅー、ニコラちゃん優しい!」 「……黙れ馬鹿魔女。さて、その盗賊について話を戻そうか。もうすぐ、討伐作戦が下されるらしいな?」  ニコラがアインの方を向いて言う。 「だろうな。このまま盗賊を野放しにしておくわけにはいかない」 「もう大筋の計画は決まっていると噂されている。今回は一般の戦闘職に協力してもらう部分が多いと、さっき会った用心棒が言っていた」 「え……?」  アインの表情が固まった。他3人は理由を察することが出来ない。 「アイン、何か気になるの?」 「ミラ……俺、その話聞いてないんだ……」 「ああ……一応勇者なのにね……」 「………」   この4人の中で、アインだけ何故か有名ではない。魔王討伐チームのリーダーなのだが、人によっては、勇敢な『3人』が魔王を倒し世界を救ったと思っている程だ。当然、いなかったことになっているのはアインである。 「いや、きっと連絡が遅れてるだけだって!」 「ああ……だと思うけどな」  ミラのカバーを余所に、アインは虚ろな目で食器を置く。  無駄に重い空気が、勇者の食卓を包み。その日の晩餐は終了した。
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