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『いただきます』
皆の声が揃う、そして、一斉に食べ始めた。
「なあ」
その直後、アインが声を発する。理由は全員が分かっている、討伐作戦のことだ。
「結局声がかからなかった」
「アインって元々存在感薄いけど、ここに極まれりって感じだね」
「ミラ……流石にそれはイラッと来るからやめてくれ」
「うぃ」
素直に引くミラ。アインにとって、存在感の無さは言われたくない点なのだ。
「しかし、なんでアインはそんなに知名度低いんだ?」
「確かに……私達の中では絶対的なリーダーでも、第三者からは軽視されがちですね」
討伐作戦に呼ばれていないということは、国から忘れられているということだ。
アイン達が魔王を討ち、この国で恩賞を賜ってから、まだ一月と経っていない。短期間で忘れられた救世主である。
「お前らのせいでもあると思うが……」
「俺達? 何かしたか?」
アインは3人を見る。魔女と元貴族であるミラとマリアは存在感があり、ニコラもこの辺りでは珍しい魔物使いだ。その3人と比べると、元々ただの掃除屋――依頼を受けて魔物を駆除する仕事だ――でしかないアインはどうしても目立たなくなってしまう。
「あれじゃない? ニコラ、城に行くときに魔物引き連れてたじゃない」
「え、お前そんなことしてたの?」
アインは驚く。恩賞を賜った日、アインは他の3人より早く城に来ていたので、そのことを知らなかったのだ。
「いや、魔物がついてきちまってな、無碍に扱うこともできなくて、ギリギリまで一緒にいた後、結局説得して帰ってもらった」
「魔物にモテるんだな……」
才能である。事実、魔物使いとしてはニコラはかなり有名だ。
「そうは言うが、ミラだって城に向かう途中、上級魔法使っただろう。ただのパフォーマンスとして」
「……おい、ミラ~?」
妙な声で問いかけるアイン。ミラにとっては聞き慣れた、怒る一歩手前の声である。
「こ……子供が魔法見せてってしつこく言ったんだよ!」
「ほう。で、どの魔法を使った?」
「……フィル・バーンだよ……って痛い痛い痛い!笑顔でつねらないで」
言葉より先に手が動いたアイン。魔法の名前は簡単な区別でしか無いので、同名の物が沢山有る。『フィル』は『火』、『バーン』は『地面からの噴射』を意味する。
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