一 通り魔

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「逃げないんだ、へぇ……そんなに殺されたいの? なら――殺してあげる!」  通り魔は笑顔で顔を歪ませると俺めがけて走り出した。それと同時に逃げ出す。 もう行き止まりとかそんなことを考えてはられない。とにかく曲がり角を利用して通り魔を撒かなければ。 だが、世の中そんなに甘くはない。 「……行き止まり!?」  慌てて後ろを振り返る。まだ、通り魔は来ていない。  通り魔といっても所詮女子高生。今のうちに大通りに逃げ出せば助かるかもしれない。だが、その途中に通り魔と鉢合わせにでもなったりしたら終わりだ。  通り魔の足音は次第に大きくなって近づいてくる。  大丈夫、落ち着け。今の俺はこれを持っている。女子高生の振り回す刀ぐらい、俺なら打ち負かせる。こうなったら、一騎打ちだ。  俺は決心して肩にかけているスクールバッグを投げ捨てる。  そして、足音が止まった。 「ふふふっ、みーつけた。あれ、行き止まりなのかな? ……って、何を持ってるの?」  通り魔が訝しげに訊いた。顔から不気味な笑顔が消える。 「…………鉄、パイプ?」  俺の手にあるもの――鉄パイプを凝視したまま通り魔は呟いた。 「そうだ。来る途中にあっただろ?修繕工事中のビルが。そこに山積みにされていたから一本拝借してきた」  そう言うと、通り魔はさも可笑しそうに笑い出した。 「私にそれで挑もうっていうの? ただの高校生が」 「そっちだって、所詮高校生だろう」  今度は箍が外れたように通り魔はケラケラと笑う。 「そうだね、私はただの高校生。でもね……都市伝説の通り魔は私だけで成り立っているわけじゃない」  そして、通り魔は息を大きく吸い込んだ。 「そのことを今から教えてあげる!!」 通り魔は勢いよく俺に飛びかかると日本刀を振り上げた。 それを鉄パイプで防ぐ。金属と金属とがぶつかり合う音が耳をつんざいた。 俺は力任せに鉄パイプを払う。すると呆気なく通り魔は飛ばされ、壁に強く体を打ちつけた。 痛みに顔をしかめる通り魔を見て、少し良心が痛む。  やりすぎた。  一瞬、そう思った。だが、その気持ちはすぐに消えた。
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