断章四 境界を壊す者

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「何だコイツは、何故傷一つ付かない!!!?」 堪え切れず、一人の英雄が叫ぶ。 自分達は普通の人間とは一線を画した特別な人間という自負があった。 それ故に、全力で攻撃しても全く通じないというこの状況はとても許容出来なかった。 こんな事はあってはならない。 英雄の力が通用しない敵なんてものは…ッ!!!! 『おお、すまんすまん。 そう言えば神力を張り巡らせたままだったな。 呼び出される時は神獣として正常な状態である事を忘れていた。』 ほれ、と。 《災厄王グレイプニル》は全身に巡らせていた神力を無理矢理引っ込め、 自身の肉体の耐久度をこの世界の基準に合わせたものにまで低下させた。 すると、途端に英雄達の攻撃は通じるようになる。 《災厄王グレイプニル》の表面が魔法で爆散し、剣で肉が切れる。 『そこまでサービスするか?』 『全く効かんのでは退屈であろう?』 英雄達の全力の攻撃で傷付く。 しかし、傷付けた傍から治る。 波打ち際に頑張って書いた文字が波が来ると平に均されてしまうように、 渾身の一撃で刻んだ傷が次の攻撃に移る時にはもう完治してしまっている。 これではさっきと同じだ。 『しまった、全快時は再生が速過ぎるのが問題だな。 どうにかして肉体の再生速度も抑えねば。』 『自分を強化じゃなくて弱体化させるのに悩むなんておかしなもんだ。』 《魔炎》は《災厄王グレイプニル》に魔法を放つ英雄に攻撃を仕掛け、数手で反撃を封じ込め意識を刈り取る。 周囲の英雄も動かない《災厄王グレイプニル》ではなく《魔炎》に標的を切り替えた。 だが集団戦闘に慣れず性にも合わない英雄は互いが邪魔となり、そこに漬け込まれ次々と倒れて行く。 「クソクソクソ、何でお前なんかに!!!?」 『強いて言えば経験の差かな。』 《魔炎》の肘が最後の英雄の鳩尾に突き刺さる。 爆発による急加速の力を借りた鋭い一撃は肺の中の空気を吐き出させ、体をくの字に折る。 そこからは流れ作業。 踵で足の甲を砕くように踏み付け、肘を顎へと打ち上げ左手で服の襟を掴み背負い投げ。 背中から落ちる所を急速に引いて顔から落とし、金属を仕込んだ靴先で側頭部を蹴り抜く。 トドメに黒に白が混濁した炎を放ち、終了。 これで同盟諸国連合のほぼ全ての英雄が撃破された。 《魔炎》一人の手で。
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