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そして若い英雄は炎の中から出て来た。
剣を落とし、泥酔状態にあるかのようなフラフラとした足取りで。
「──────?───────ぁ」
炎に焼かれないよう目を閉じていたので、何が起きたのか分からないのだろう。
目を白黒させながら、疑問符を浮かべる。
実は炎球に飛び込んだあの瞬間、若い英雄ではなく《魔炎》もほぼ同時に姿勢を低くし足裏で炎を爆発させて加速。
炎球へ進入し、金属製のロッドで掬い上げるように若い英雄の顎を強打したのだ。
「馬鹿、離れろ!!!!」
遅れて来た英雄の一団は先走ってやられた若い英雄に退却を促すが、脳震盪を起こしているので次の行動へ移れない。
仕方ないと、《魔炎》が追撃を仕掛けて来る前に後ろへ投げて退避させようと肩を掴んだ。
しかし、それが罠だった。
「こ、この炎は───────ッ!!!!」
肩に手を置いた瞬間、黒に白が混濁した炎が着火。
炎は一気に燃え広がり、瞬く間に若い英雄と肩に触れた英雄の体を包んだ。
英雄の一団はその炎に触れないよう避けて《魔炎》へ向かおうとしたが、
2人で満足して燃えていた炎が突然挙動を変え爆発的に拡散。
結果全員に着火し、《魔炎》の討伐へ向かっていた全ての英雄が戦闘不能に。
『……………………おい、グレイプニル。』
炎の爆発的な拡散。
それは《魔炎》の意思に依るものではなかった。
黒に白が混濁した炎はあのまま2人の力を奪い続け、1日は動けないようにした所で自然に消えるはずだったのだ。
しかし、体に大量の魔力が流れ込み容量を超えた過剰な分が押し出される形で炎を拡散させてしまったのだ。
その犯人は言うまでもない。
『魔力の供給程度ならば良いではないか。
お前の魔力が尽きたら我も現界出来なくなるのだからな。』
『戦闘のリズムが崩れるから止めてくれ。
せめてオレの魔力容量を超えない分にしてくれよな。』
『これでも可能な限り抑えたつもりなのだがな。
お前の魔力容量が小さ過ぎるのだ。』
普通に話しているが、今は複数の英雄から攻撃を受けていた。
その大きさから強力な召喚獣と推察した英雄達は持ち得る最大の攻撃を叩き込むが、傷一つ付かない。
人間にとっては大量の魔力を込めた魔法でも、剣の重さを乗せた全力の一撃でも。
《災厄王グレイプニル》の体には全く攻撃が通らない。
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