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『あー、働いた働いた。
これならあいつにガミガミ煩く言われる心配は無いな。』
コキッコキッと首や腰の骨を鳴らしながら《魔炎》は同盟諸国連合軍の中を通る。
その歩みを止める者はいない。
立ち塞がろうとする者も。
無駄に命を散らすなという実質的な敗北宣言も全軍に行き渡っているので、
《魔炎》と《災厄王グレイプニル》が近付くと波のように下がり道を開ける。
『これぞ王者の歩みよ。
人の群れを割らせる絶対強者となった気分はどうだ?』
『言う程良いもんでもないだろ。
左右から視線が突き刺さって居心地悪い事この上無いって。』
サーッと、勝者のための道が築かれる。
そして、その終着点。
同盟諸国連合軍総司令部から、一人カレン・アリアンロードが《魔炎》と《災厄王グレイプニル》に向かって歩いて来た。
手に今回が目的物と宣伝した最高位の古代遺産の一つ、
死者の記憶を曲にして奏でる《オルゴール》をその手に携えて。
そして《魔炎》の手前で止まり、押し付けるように《オルゴール》を差し出す。
『潔いな、流石にもう少し抵抗されると思ったよ。』
「………………下手に抵抗して無駄に被害を拡大させるよりも、目的の物を渡して大人しく帰って貰う方が賢明と考えての判断よ。」
じゃあ遠慮なく、と。
《魔炎》はカレン・アリアンロードから《オルゴール》を貰おうとした。
が、
『えっと、離してくれないか?』
「…………………………………」
カレン・アリアンロードの指は《オルゴール》を掴んだまま離そうとしない。
個人的な事情で《魔炎》は実力行使の強行手段に出る訳にはいかず、どうしたものかと立ち尽くす。
『諦めてそれを渡すが良い、原初の英雄の末裔よ。
どう足掻いてもこの状況は変わらんぞ。』
「…………………………やっぱり。」
何を納得したのか、カレン・アリアンロードは《魔炎》に《オルゴール》を渡した。
代わりに尋ねる。
「魔術で再現したものじゃなくて、本物の《災厄王グレイプニル》のようね。
貴方は一体何者?
何故………いえ、どうやってその《災厄王グレイプニル》を従えているの?」
『おお、それを聞いてくれるか!
実はオレはこいつに弱味を握られ、泣く泣く従い馬車馬が羨ましく思える程酷使されているのだ。』
「テキトーな事言ってんじゃねぇよ。」
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