第十話

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「ちょっとッ!人の店の前で騒が……なんや、あんた等か…」 騒ぎを聞きつけて飛び出して来た女将が嘉月と新見の顔を見るなり吊り上げた眉を下げた。 「女将、おはよ~」 「おはようやあらへん。店先で騒いどらんと、さっさと入っておくれやす」 素っ気なく引っ込んだ女将に肩をすくめ、嘉月達も店内に足を踏み入れた。 「ねぇ、芹沢が女将に呼ばれたって言ってたんだけどなんの話?」 先を歩く女将に声を掛けると振り返った女将がにっこり微笑んだ。 「嘉月はんがいつ太夫として店に呼ばれてもえぇように着物やらなんやら揃えよ思って芹沢はんに声を掛けたんよ」 「……なんで芹沢?」 女物の着物を買うのに男の芹沢を呼ぶ理由が分からないと嘉月が首を捻る。 「あっ!もしかして…芹沢の悪名を利用して値切らせる気じゃないでしょうね?」 じろりと嘉月が睨むと女将が茶目っ気たっぷりに肩を竦めた。 「あら、バレてもうた?」 「ちょっと~!止めてよね!着物が高いのは分かっ……ん?着物…?」 何かが引っかかったのか嘉月の動きがぴたりと止まる。
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