第十話

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「女将!着物なんだけどね…」 「話は部屋に入ってからにしよし。落ち着かへんやろ?」 とんぼ返りで戻ってきた嘉月が話し掛けるのを襖に手を掛けた女将が遮る。 「座ってておくれやす。今、お茶を持って来ますさかい」 「私も行く!皆は此処で待ってて」 その時、女将の背中を押して部屋を出ようとする嘉月の袖を沙夜が引いた。 「姉はん!お手伝いならうちが…」 嘉月は率先して働こうとする沙夜の姿ににっこり笑うと後ろを指差した。 「芹沢、淋しそうじゃない?女将に話があるだけだから沙夜は芹沢の相手してて?」 振り返って芹沢を見た沙夜は素直に頷くと嘉月の元を離れ芹沢の横にちょこんと座った。 早速、芹沢が何か話し掛けるのを見て嘉月は部屋を出て行った。 「内緒話どすか?」 部屋の外で待っていた女将が興味津々といった顔で嘉月に近寄る。 「内緒って程じゃないけど…着物はさ、菱屋で頼める?女将が買うんじゃなくて、芹沢のツケって感じでさ?」 「芹沢はんのツケって…また借金増やさはるの?」 芹沢の悪名を消したがる嘉月が芹沢の悪名を利用するような提案をした事に女将が怪訝な顔をする。
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