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「姉はん…あそこ…」
年季の入った古い長屋の一角を沙夜が指差す。
「……なかなか趣きのある長屋だね」
日本語って便利だ。
表現を柔らかく伝えてくれるんだから……
「うち、貧乏だから…」
へへ、と沙夜が恥ずかしそうに顔を赤らめた。
「気にすんな。今の俺らも似たようなもんだ」
「確かに。私も着の身着のままの一文無しだしね」
家を借りてる沙夜達の方が裕福だと嘉月も笑う。
「ほら、早く行こ?」
沙夜を促して古ぼけた家の前にと足を進めるが、木戸に手を掛けたまま沙夜の動きが止まる。
「どうした?」
新見がひょいっと沙夜の顔を覗き込む。
「……なんて言ったらえぇのかわからへん」
「ただいまでいいんじゃねぇか?」
困ったように眉を下げる沙夜に新見があっさり応える。
「でも…帰って来た訳やあらへんし…」
戸惑いながら沙夜がますます困った顔をした。
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