第十話

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    ―*―*―*― 「姉はん…あそこ…」 年季の入った古い長屋の一角を沙夜が指差す。 「……なかなか趣きのある長屋だね」 日本語って便利だ。 表現を柔らかく伝えてくれるんだから…… 「うち、貧乏だから…」 へへ、と沙夜が恥ずかしそうに顔を赤らめた。 「気にすんな。今の俺らも似たようなもんだ」 「確かに。私も着の身着のままの一文無しだしね」 家を借りてる沙夜達の方が裕福だと嘉月も笑う。 「ほら、早く行こ?」 沙夜を促して古ぼけた家の前にと足を進めるが、木戸に手を掛けたまま沙夜の動きが止まる。 「どうした?」 新見がひょいっと沙夜の顔を覗き込む。 「……なんて言ったらえぇのかわからへん」 「ただいまでいいんじゃねぇか?」 困ったように眉を下げる沙夜に新見があっさり応える。 「でも…帰って来た訳やあらへんし…」 戸惑いながら沙夜がますます困った顔をした。
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