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「いやや…ッ!」
父親の諫める言葉を拒絶した太一が大粒の涙を溢しながら嘉月を睨んだ。
「…いやや!沙夜姉はんもおらんくなって…そのお金でお医者に掛かっても治らへん言われたのは俺やって知ってるんやで!」
「……………………」
幼い子供の叫びに誰もが何も言えなくなった。
広くもない土間に重苦しい沈黙が降りる……
「治せるよ」
尻餅をついて汚れた着物の裾を払いながら嘉月が口を開く。
「新見…赤ちゃん貸して?」
「お、おう」
やはり身動きが取れないまま、新見は嘉月と向かい合い嘉月が赤子を抱き取るのを待つ。
「……………………」
無言のまま嘉月が赤子を抱き締めるが何も起きなかった。
「ほら!やっぱり嘘つきや!何も起きないやないか!」
その様子を見た太一が鋭く糾弾した。
「…起きる訳ないよ。この子は健康。病気じゃないんだから」
ふぅ…と息を吐いた嘉月が赤子を母親に託す。
「…やりたくなかったけど仕方ない、か。太一君、見てて?新見…ちょっと刀貸して?」
「「「「―ッ?!」」」」
刀という言葉に沙夜達が身体を強張らせた。
「……なにする気だ?」
刀の柄に左手を添えた新見が顔をしかめて嘉月を見た。
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