第十話

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「なら、労咳とか目に見えない病気を治したって言われたって信じられないのが当たり前なのは分かるよね?」 労咳は死の病―― じわじわと痩せ細り、血を吐きなす術もなく死んでいく病に冒された人やその家族の心情は治ったと言われて素直に信じるほど簡単な物ではないはずだ。 「沙夜のお父さんも時間が経って治ったって自分が思わない限り不安なんだよ。太一君もね?沙夜が居なくなった間も病気のお父さんを看てたんだからさ…だから、見て貰お?そりゃ痛いのは嫌だけど私ならすぐ治るからさ?」 嘉月の言葉に納得した沙夜がこくりと頷くのを見て嘉月は沙夜を下に降ろすと新見に視線を投げた。 「そういう事だから…新「新見はん!うちの手ぇ切って…!」 「…あ?」 嘉月の言葉を遮り手を突き出す沙夜に新見が目を丸くする。 「ちょ、ちょっと沙「姉はんが痛い思いするのはあかん!新見はん、うちの手ぇ切っとくれやす…!」 「さ、沙夜…やめっ…ッ?!」 我が子の言葉に両親は慌てて止めに入ろうとするが新見が鯉口を切ると硬直して動きを止めた。 「……痛い目みるのはお前でいいんだな?」 新見が沙夜を見下ろし確認すると沙夜はギュッと唇を噛んで腕を差し出した。 「新見ッ!沙夜はダメッ!」 焦った嘉月が新見に飛び付き鯉口が切られたままの柄を両手で押さえつけた。
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